第1回 幽霊始めました。
―日本 木楽町 上空 はじめまして。私、『八津基 詩乃(ヤヅキ シノ)』と申します。 間違っても『八つ墓』ではありませんよ? それは中学校の時のあだ名です。 享年17歳、今は幽霊を始めて5分が経過しました。 え? 短い? これでも現状をよく考えた結果導いた答えなのですけど。 私は今、空に浮いていて、眼下には電車に轢かれて目以外にも色々と当てられない状態になった私が散らばっています。一言で言えばひき肉。二言で言えば木っ端微塵といったところでしょうか。誰がどう見たって即死です。生きていたら、それはそれで人間じゃないでしょう。きっと異星人です。あるいは某ウイルスに感染したゾンビです。 う〜ん、後でマグロ拾いすることになる人は大変ですね。 マグロ拾いっていうのは警察用語らしいですよ? バラバラになった人体の破片を集めることだとか。私が拾われるのは変な気分です。 こんなことになるのならきちんとお手入れしておくべきでした。 ……どこのお手入れかは乙女の秘密ですよ? それにしても、損害賠償はどうなるのでしょうか? 私が踏切にいた時遮断機は下りていませんでした。遮断機が下りていたら止まるくらいの常識は持ち合わせていました。上がっていたから踏切に入ったのですが……。 母や父に損害賠償を請求するなら鉄道会社の社長に化けて出てやりましょう。 きっとできるはずです。なんたって、私は幽霊ですから。 「あー、よかった。何とか間に合った〜」 後ろから声がしました。ここは空中ですからその声の主も飛んでいることになります。 「彼方も幽霊ですか?」 後ろにいたのは小学生くらいの美少年でした。……ちょっと好みかもしれません。 「幽霊? 違うよ。ボクは死神。死者をあの世に導く者さ。さて、おねーさん、お名前は?」 「私、八津基詩乃といいます」 「はいはい、八津基詩乃さんね。……八津基、八津基……八津基?」 死神さんはどこからか取り出したリストとにらめっこしています。 ふふふ、眉間による皴が可愛いです。 「……ああ〜、ちょっと待ってね。日付確認、時間も合ってる。……なんでリストにない?」 「さあ?」 「いや、おねーさんには聞いてないし。おかしいな。ここで死ぬはずのリストに載ってないのに魂が浮いてるなんて……」 「その辺に散らばっているのは私ですよ?」 眼下ではようやく救急車と警察車両の到着ですね。救急車には意味が無いですけど。 「……うぇ、ばらばら。……けどさ、えらく落ち着いてるね。バラバラになった自分を見て取り乱さないなんて」 どうなのでしょう? 死んだことには変わりありませんし受け入れるしかないと思うのですが。 「ああ、それよりなんでリストにないんだ? ここにいるのは80歳のお年寄りのはずだぞ?」 そういえばおばあさんが私の少し前を歩いていました。それで、確か私が荷物を持ってあげました。かなり重い荷物でふらふらしながら歩いていました。 ……もしかしなくても荷物を受け取らなければ生きていたかも知れませんね。 見ると死神少年がうなだれています。どうしたのでしょう? 「……運命変わってるじゃん……たまにいるんだよね、運命を狂わせる人……。あ、そうそ、霊体の思考はほとんど外に洩れ出るから気をつけたほうがいいよ」 どういうことでしょう? 「だから、考えたことは近くにいる霊体に伝わってしまうってこと。よっぽど訓練しないとね」 「あら、そうなのですか。勉強になりました」 「……はあ、どうしよう? 本来の寿命はまだ75年あるみたいだし……連れてくわけにもいかないじゃん……」 「私、そんなに長生きできるはずだったのですか?」 「そう。……どうにもならないな。おねーちゃん、よく聞いてね。おねーちゃんは本来の寿命分ここでいわゆる地縛霊としてこの踏切に存在することになる。あの世には受け入れられないからね」 地縛霊ですか。この場所から動けないのは不便ですね。 「ほら、縛鎖(ばくさ)が現れた」 あらら、鎖が足に巻きついています。 「大体人間の感覚で言うと半径20Mくらいしか移動できなくなる。……さみしいかも知れないけど、辛いかもしれないけど、どうしようもないんだ」 この鎖何で出来てるんでしょう? 「……話、聞いてる?」 「はい、聴いていますよ。この軟らかい鎖のせいで踏切の近くしか行けないんですね」 「へ? 縛鎖が軟らかい?」 ほら、引っ張れば切れてしまいそうなくらいに。……あ、切れちゃいました。 あら? 何故か死神少年は天を仰いでいます。 「……なんなんだこの人……縛鎖を切るなんてありえないって……」 そんなにレアイベントなのでしょうか? 「……レアも何も死神として生まれて千年近く、初めて見聞きしたよ」 どうも死神少年は死神老人だったようですね。 「いや、まあ、死神に年齢は関係ないし」 大丈夫、見た目は十分守備範囲内です。ぷにぷにのほっぺとか成長途中の骨格とか。 あ、距離を取られました。 「やっぱり話を聴いてなかったでしょ? 思考は周囲に伝わるんだよ」 そうでした。気をつけなくてはいけませんね。 「え……あれ? おねーさん、なにも考えてないよね?」 「聞きようによってはそれ、失礼ですよ?」 死神少年はまた天を仰ぎました。 「幽霊になり立てで思考のブロックまで……規格外もいいとこだよ……」 「褒められてます?」 「あきれてるの」 そうでしたか。 そういえば鎖がないということは踏切から離れられるということみたいです。 自由な幽霊。うん、なかなかいい響きです。 「……何考えてるかわからないし。はあ、上に報告しなきゃ……」 あ、消えちゃいました。まだ名前も聞いていませんのに。 まあ、また会える気はします。 ふと下を見ると大騒ぎになっています。マスコミの人たちも大勢。 私、テレビに出られますね。小さい頃はブラウン管に写りたいと願っていました。 まさか、こんな形でその夢がかなうなんて。 ……まあ、かなったところで意味はないんですけど。 さて、どうしましょうか? 日も暮れかかっていますからとりあえず家に帰りましょう。 私の家は踏切から歩いて5分です。幽霊の私はふわふわ飛んで一直線。 なんと2分くらいで着いちゃいました。 家の居間では母が大声で泣いていました。当然でしょう。元々涙もろい人でしたから。 一人娘の死の知らせは堪えたのでしょう。でも安心してください。貴女の娘はずっと側にいますから。 抱きつこうとして……ついつい、幽霊だということを忘れていました。 人には触れられないようです。……ちょっと、それだけは悲しいですね。 でも、不思議と体温は感じます。 私は母のぬくもりにすがるようにして泣いてしまいました。 私はまた一つ学びました。 ……幽霊になっても涙は流せるようです。 |
あとがき 二次創作SSがスランプ気味なので気分転換にチマチマと書いていた話をアップしてみることに。ちなみに主人公の設定はどこかのボタンを押すと見れたりしますが実用性は皆無でしょう。 個人的に書いていて楽しいので長続きするかと思われます。たぶん。 |