幽々自適な生活 第22回 来訪者来たりて 色々あったあの二日間からあっという間に1週間ほど経ちました。 もちろんその間にも色々ありましたよ? あの翌日にはもう一度みんなで温泉に浸かりに行きました。 富士の樹海を進む百鬼昼行。 狼、座敷わらし、河童、こなきじじい、砂掛けばば、猫娘、一反木綿、鎌鼬に百目、一つ目一家、小豆洗いとかも。あとは幽霊多数と人間以外の音夢ちゃん。 天狗ホテルについてからはオーナー疾風丸さんとその父親であり先代オーナーである伊吹丸さんも加わりました。相変わらず猫又一家は姿をくらませたままでしたが。 で、問題の幽霊も浸かれる温泉です。 なんと驚いたことに本当に幽霊でも浸かれたんですよ。 思わず鼻歌が出るほど気持ちよかったです。身も心も洗われるといえばありきたりな表現になってしまいますが本当に見も心も軽くなりました。 続いて、音夢ちゃんのおじいさんと白さんが改めて和解しました。 坂井の退魔師はこの町に近づかないのだそうです。音夢ちゃんのご両親もあまり無事ではなかったけど開放されました。そして、ご両親は、音夢ちゃんの告白を受け……。 時を失っても親子の縁が切れることは無いようです。 抱き合う家族を見てちょっとだけ羨ましく思えました。 そうそう、親子といえば私も夢枕に立つというのを実行してみたのです。 あまり長くはなかったのですが、それでも少しだけ母と話すことが出来ました。 もちろん、母にしてみれば一夜の夢でしかないのでしょうけれど私にとっては大きな意味を持ちます。ただ、成功したのはその一度きり。要訓練です。 具体的に何をすればいいのかわかりませんが。 それにしても、あれこれ考えるのにも飽きてきました。 音夢ちゃんは学校ですし、白さんや千尋さんは事後処理でまだ忙しいし、私は廃校の屋上で一人暇をもてあましています。 屋上のへりに座って足をぷらぷら。 う〜ん、座っていても気分は変わりません。 とりあえず、お散歩しましょう。 最初の目的地は大木楽公園へ。 池の中に飛び込んで美香さんを探します。 彼女も浮遊霊になったのですが相変わらず所在地はこの池の中。どうも、この暗い池の中になじんでしまったようで。 池の一番深い中央付近、美香さんがいました。でも、声を掛けるのに躊躇しました。 遠めに見ても今の美香さんは地縛霊だった時の姿なのです。しかも、暗がりにうずくまっていて迫力満点です。アレ、心臓に悪いんですよ。 いや、まあ、無いですけど。止まっていますけど。 深呼吸していざ鎌倉、です。 「わっ!!」 いつも驚かされているのでたまには復讐を。 「きゃああああああああああああ!!!」 「……」 返ってきた悲鳴があまりに凄すぎて心臓が止まるかと思いました。 美香さんは取り乱して、まだきゃあきゃあ言っています。 でも、ただ驚かされただけでこれだけ取り乱すものでしょうか? 「美香さん、落ち着いてください。私ですよ」 「っ……!? し、詩乃なの……驚かさないでよ……」 「ごめんなさい、これほど取り乱すとは思わなかったもので」 「気にしないで。ちょっと怖い目にあった後だから神経質になってた」 怖い目、ですか。 「何かあったんですか?」 「昨日の夜ね、人形に追いかけられたの」 「人形?」 「そう。アンティークドールっていうのかしら? それが動いてずっと追いかけてきたの」 「巻きますか? 巻きませんか?」 「……それは、違うわ」 あっさり否定されました。 それにしても、人形が動く? ホラーですね。 「けど、動いて追いかけてくるだけで、特に被害は―」 言いかけて気が付きました。池の底の暗がりで見えにくくなっていて気付かなかった部分。 この前、私がそうなったように。美香さんの右の肩の辺りがごっそりと抉り取られたようになくなっていました。 「その人形に何かされたとたんこうなったの。怖くなった池まで逃げて飛び込んだら追ってこなかったから水には入れないみたいだけど、しばらく飛び回ってたから出るに出られず……。はぁ、詩乃が来たってことは今はいないのね」 「それで、治せないんですか?」 「私はそういう知識ないからよくわからないわ」 あら、そうなのですか。ここは一つ教授してあげましょう。 「じゃあ、言う通りにしてくださいね」 「いいわよ」 「自分の本来の体型をイメージしてください」 教えるのは私なりのやり方なのですが。服を変えるのと一緒です。 幽霊に形はありません。イメージ次第で変幻自在なのです。 ただし、美香さんには言いませんが、消えてしまった部分。そこにはもう何もないのです。 「続いて、今の自分の身体もすぐ隣にイメージしてください」 肩だった事を示す糸もなければ美香さんだった糸も視えません。 「後はそれをゆっくり重ね合わせてください。後はゆっくりと今の姿を消していきます」 ちゃんと実行できているようで、美香さんの身体はちゃんと元通りになりました。 けれど、元通りになったのは見た目だけの話。私もそうですが、今のは欠けた部分を残った部分を薄めて補っているだけなのです。幽霊は死ぬことは無いでしょう。けれど、欠損を繰り返せばいずれは存在が薄まり消えてしまう。待っているのは死ではなく消滅なのです。 あ、ちなみに全部ニーアさんの受け売りです。 「あら、戻ってる……。ありがと」 「いえいえ。さて、とりあえず行きましょうか」 「え? どこへ?」 「そんな物騒な人形が動いているのです。白さんに相談しましょう」 そもそもなんで人形なのでしょうか? 確かに動いているのを見たら恐怖でしょうけど……。 私的にはコート一枚で前に立ちはだかる変態さんのほうが恐怖です。 ぶ〜らぶら、なんてされたら本当に夜も眠れません。 ま、かわいい男の子だったら許します。むしろ、その場で頂きます。 シキ君だったらなおさら大歓迎。 「詩乃? 変な顔してどうしたの?」 「あ、いえ。なんでもないです」 赤くなりそうになった顔を何とか取り繕い二人は空へと。 とりあえず、池の周囲は警戒しつつ神社へ向かいます。 神社の鳥居が見えた頃地上に降り立って後は歩きです。鳥居をくぐらないとお社には辿り着けないようになっているらしいです。くぐらなければ以前見た、広い森の中を迷うことになります。 ふと見ると、不思議な人がいました。 年のころは10歳前後、綺麗に整った顔立ち、私と同じくらいで腰まである長い黒髪。 そして、黒に白のフリルがいっぱいついた服。アレですね、いわゆるゴシックロリータっていうアレ。ダメな人が着ると本当にダメダメですがこの少女の場合は不思議と違和感がありません。なんというか、お人形みたい。 私が見とれていると少女がこっちに気付きました。 ……え? 気付いた? 「そこの浮遊霊、ここらに狼はおらぬか?」 見えているようで。でもって、少女らしからぬ言葉使い。 正面に立って見ると長い時を生きてきた者の貫禄がありました。 「送り狼になりそうな男の人ならその辺にたくさんいますけど?」 「我は長旅の末で疲れておる。下らん問答をする気は無いぞ」 ……むむ、手ごわいですね。 「……詩乃」 あ、美香さんのことをすっかり忘れていました。 「ごめんなさい。この辺で狼さんといえば白さんのことだと思うのですが」 「なんだ、今も白を名乗っているのか。そこへ案内いたせ」 「はい。ちょうど今から向かうところですし。こっちですよ」 歩いて10歩。鳥居の前です。 「……む、そういえば土地神になったのだったな。失念していた。ここがあやつの社か」 少女は興味深そうに鳥居をくぐろうとして、結界に弾かれて尻餅をつきました。 「「「……」」」 三人とも思わず沈黙です。 私と美香さんはこんな仕掛けがあったことに驚いて、ですけど。 何はともあれ、彼女は通り抜け出来ないようです。 「浮遊霊、なんとかいたせ」 「何とかといわれましてもねぇ」 糸は見えるので夢乃と同調すれば切ることも可能でしょう。ケド、それをやると確実に怒られるでしょう。と、言うより。 「彼方は何者ですか?」 美香さんのこともあるので先に進みたいところですが気になってしまいました。 「見てわからぬか?」 「美少女、というより美幼女?」 「洸(ほのか)の歳は11だ。どちらでも当てはまる」 自分のことなのになぜか他人事。 糸を辿ると……あれ? 人の魂なのに同時にもう一つキツネの影が。 「まあ、そんなことはどうでもよい。我では鳥居をくぐれぬようだな。ならばここで待つ。白に伝えよ。紅蓮(こうれん)が待っていると」 「わかりました。じゃあ、そのまま伝えますね」 洸というのが憑依されている体の持ち主で紅蓮というのが憑依しているキツネさんらしいですね。ただ、正体はよくわかりません。因果の糸が読み取れないほど複雑で……。 こんなことは初めてです。 とりあえず、彼女を残し私と美香さんはお社に向かいます。途中の売店で居眠りしていたアダルト千尋さんを素通りして社務所へ。 そこで私たちは衝撃的なモノを見ることになりました。 壁を素通りして中へ。 「お邪魔しま――」 思わず異様な光景に口をつぐみ、呆然。 部屋の中では本性に戻った白さんが部屋の隅に縮こまって震えていました。ふわふわの尻尾は萎み脚の間に。なんというか、怯える犬そのものです。あ、狼でした。 「白さん?」 思わず声をかけ―― 「きゃうん!?」 返ってきた反応に良心が痛みました。 何が白さんをここまで追い詰めるのでしょうか? あ、なんとなくわかったような気が。 「白さん、外で待っている方から伝言です。紅蓮が待っている。だそうです」 その名前を出したとたん白さんの身体が面白いように引きつりました。 そして、泣き声。 ……え? な、泣き声? 「ちょ、白さん?」 しくしくめそめそ。てんでお話になりません。こういう時に千尋さんがいれば喝を入れてくれるのでしょうが……とりあえず、起こしてきましょう。 美香さんを部屋に残し私は外へ。 「千尋さん、千尋さん、お客さんが来ていますよ?」 「……にゃ……もうちょっと……」 商売する気ゼロですね。といっても参拝客なんていませんが。 「白さんに怒られますよ?」 ピクリと反応あり。では奥の手です。 「千尋、いつまで寝ているつもりだい」 声真似。この前の宴会でやったら意外にウけました。似ていると。 「っ! ごめん! 起きた! 起きてた! ちゃんと仕事するから!!」 飛び起きて混乱する千尋さん。きょろきょろと周囲を見回してようやく覚醒した様子。 「おはようございます。白さんの様子がおかしいのでちょっと来ていただけませんか?」 「様子がおかしい? 珍しいね」 売店にいる千尋さん、紅白の常衣を翻してカウンターを飛び越えます。 職務放棄です。……参拝客は相変わらず零ですけど。 千尋さんは部屋を覗き込み、固まりました。 奥では大きな狼が小さくなってしくしくめそめそ。あまりの光景に残りは見事に石化。 もちろん、私も含めてです。なんだか、さっきより白さんの背負う影が色濃いです。 「……白? いったい何があった?」 しばらくして、気を取り直した千尋さんが白さんに迫ります。 「……とうとう、来た……」 白さんはソレを繰り返すだけで目は虚ろ。普段のこの方とは最早別人(別神?)です。 「来た? 何が来たんだ? 白!!」 反応無し。あせり始めた千尋さん。一方で私には誰が着たのか、分かっています。 白さんがこんなになるとは思ってもしませんでしたが。 「千尋さん。たぶん、白さんがこんなになったのは紅蓮という方が原因かと」 その名前が出たとたん千尋さんの表情がなくなりました。瞬時に本来の姿に戻り外へ。 わけがわからないまま私と美香さんは取り残されることに。 「……いったい何が起きているのかしら?」 「さぁ、としか。過去に何かあったのでしょうか?」 いや、普通に考えれば、ソレしか考えられないですね。 白さんを美香さんにお任せして私は外へ。 本殿の前では千尋さんが詠いながら舞を舞っています。 「炎々。枯野に燻りし焔の鬼」 扇に炎が灯り、千尋さんの周囲を回り始め、 「蒼々。湖底に潜みし水の鬼」 今度は水が。 「飄々。薄野に啼きし嵐の鬼」 周囲で空気が渦を巻き、 「煌々。黒雲に輝きし雷の鬼」 目に見えて帯電します。 「轟々。地底に震えし岩の鬼」 風と水と炎と紫電が土を巻き上げ 「我、盟約を以って召集す」 爆発しました。 「はわわわっ!?」 身構えてもいなかった私は吹き飛ばされ社務所内に逆戻り。 もう、こうなるなら先に言ってほしいのですが。 外に戻ると5人の美青年に傅かれている千尋さんがいました。 なんというか、凄くシュールな光景で文句を言っていいような空気ではありません。 とりあえず、誰なんでしょうね? 「久しぶりだな。力を貸せ」 千尋さん、命令形です。見たところ姿形は全員が20代前半。千尋さんは10歳前後。 にもかかわらず、 「「「「承知」」」」」 全員から同じ言葉が。 「詩乃、学校から音夢を連れてきてくれ。白が使い物にならない今、被害を抑えるには音夢の力が要る」 被害、ですか……。 音夢ちゃんはまだ授業中なのですが、つれてこないという選択肢はなさそうです。 千尋さんと周囲の美青年から放たれるのはただならぬ気配。このまま何もなく収束するとは思えません。 「すぐに戻ります」 フルスピードで学校へ。途中で音夢ちゃんに事情を話します。 そして、教室の窓の外から合図を送ります。 音夢ちゃんはすぐに仮病を使って教室から抜け出しました。あんなに元気な仮病は見たこと無いですが、場合が場合だけに見なかったことに。クラスメイトにも何人かいた、こちら側の人達も私に気づき、聞きたそうにしていましたが後で、とだけ伝えて音夢ちゃんと合流です。 「元気な病人ですね」 「生理痛がひどいって言っただけ」 「……なおさら走るのは変じゃないですか?」 死んでからは無縁な痛みですけど……無いと無いで寂しいものですね。 「ま、いいの。それより、どうなってるの?」 「さぁ、サッパリ。とりあえず、結界で仕切らないと周囲に被害が出るようなことが起きるのは確定らしいです」 「……あ〜あ、面倒ね。けど、師匠がそんなになるなんて、気になるわ」 「そうですね。急ぎましょう」 「こらこら、詩乃は急ぎすぎ。私は徒歩なんだから!」 あ、確かに。浮遊状態にある私は移動に労力をほとんど使いません。人間の枠から外れてしまっても音夢ちゃんは地上を歩くしか手段は無いので疲れますね。 そうこうしているうちに神社に到着です。 けれど、鳥居の前にいたハズの紅蓮さんの姿はなく……。 「詩乃、音夢! 二人なら神社を囲む森の中よ。急いで追ってくれって、千尋様が!」 代わりに待っていた美香さんが教えてくれました。 「わかりました。白さんの様子は?」 「相変わらずね。今はヤタさんに見ててもらってるわ」 「詩乃、いくわよ」 「はい。では、美香さん。行ってきます」 「……たぶん、話し合いっていう雰囲気じゃないわ。気をつけて」 「はい」 アレですか、妖怪同士のガチンコ勝負? しかも周囲に被害が及ぶような? 正直、巻き込まれたくないですが、音夢ちゃんが行く以上私も一緒です。 万が一の場合は夢乃かニーアさんに手伝ってもらいましょう。 鳥居をくぐらずにその脇を通り抜けるとそこは深い森の中。 お社までは直線で10kmほどあるらしいです。それを説明されてもよくわからない手法で圧縮して鳥居だけ繋げてあるとか。さすが、神様パワー。 「……ここからあの二人を見つけろって?」 地上にいたのでは到底無理ですね。けど、私に高さは関係ありません。 「じゃあ、上から探しますね」 と、大きな爆発音。 木々がなぎ倒され土砂が飛び、私と音夢ちゃんは『隔絶』の結界にガードされました。 「……探さないでもいいみたい」 「同感です」 視界は一気に開けました。というか、森だった場所はざっと見て直径500mくらいの荒地に早変わり。障害物は何も無いです。 おかげで遠くの方に例のゴスロリ美少女が見えます。そして、すぐ側には5人の美青年を連れた千尋さんが。 「音夢か。その周囲には結界の狭間がある。余波があちらに及ばぬように結界を張り守護してくれ」 「それって、余波が出るようなことをやるってことよね? 巻き込まないでほしんだけど?」 「ことが事だ。黙ってやれ」 いつになく高圧的な千尋さん。放つ気配も高圧的です。気に入りませんね。 音夢ちゃんも同じようですが私たちが抜けてきた結界の狭間とやらをさらに大きな結界で覆います。コレで一応、向こう側へ余波が及ぶことは無いはずです。 「さて、待たせたな、女狐」 「ふむ、我とて現界に影響を及ぼすつもりは無い。いつでもかかってくるがよい、小娘」 互いに挑発しすぎですね……。 なんだか凄いことになりそうです。 |
あとがき 新章に突入してしまいました。無謀、かな? 新キャラも登場でグレードアップしてまいりたいと思います。 |