幽々自適な生活 第23回 妖怪大戦争だそうで。

―神社を覆い隠す森
……現状では森と呼ぶにはちょっと問題アリな状況になっています。
一言で言えば荒地。
二言で言えばかなり荒地。
見渡す限りの広い森は音夢ちゃんと私の後ろを除きほぼ壊滅です。
自然保護団体の人が見たら激怒するでしょう。自然保護団体の人でない私でも憤りを隠しえません。なぎ倒される木々の悲鳴がさっきから耳に残ります。
かれこれ1時間ほど、ど派手な妖怪対決は続いています。
説明するのも面倒です。
ただ、改めて千尋さんが凄い人だとわかりました。5人の美青年(式神というらしいです)を操りありとあらゆる現象を引き起こしています。何でもアリです。
ですが、ソレを『一歩もその場から動かずに』やり過ごしているゴスロリ美少女の紅蓮さんはいったい何者なのでしょうか? あくびすらしています。
まあ、隣の音夢ちゃんも退屈なのかあくびをしていますが。
現状、結界の維持は寝ていても出来るらしく本当に暇なようです。
「……結界はそのままにしておくから帰ってもいいかしら?」
「う〜ん、どうでしょう? あ、ほら。千尋さんが作戦会議していますから畳み掛ける気じゃないですか?」
なにやら美青年と話していた千尋さん。6人で大きく頷き、なにやら力を高め始めました。
「あの座敷わらし、底なしなの?」
「けど、怖いですね。あんな力を平然と使えるなんて」
力の本質を知ってしまった私と夢乃では軽々しく使えません。どうしても必要な時にだけ、例えば大好きな人達に命の危機が迫った時にだけ、使うことに決めました。

千尋さんは右の拳を紅蓮さんに向けて突き出し左手を手首に添えます。
「焔鬼!」
呼び声と共に美青年一人が炎の固まりになって千尋さんの手の中に。
「嵐鬼!」
もう一人、今度は目に見えるほどの空気の渦になって。
一拍の後、気合と共にソレは開放されました。
「『恋焦がれる風』!!!」
……何というか。……ミサイル?
拳から発射された光の弾は恐ろしいスピードで消えて、とんでもない爆風を引き起こしました。
『お仕置きだべ〜』の後に起きる爆発なんて足元にも及びません。
下手をすれば町を綺麗サッパリ更地にしてしまえるほどの。
周囲に張り巡らされた物理的な現象の通過一切を『隔絶』するはずの結界が嫌な音を立てて軋みます。
音夢ちゃんの眠気もさすがに吹き飛び、必死で結界の強化をしています。
爆風が治まり数分、ようやく視界が晴れました。
で、驚き。
かなり荒地になっていた森は数箇所を残して隕石でも落ちてきたかのようなクレーターに変貌していました。残った数箇所のうち一つは私達の後方、もう一つは遥か彼方にある神社。残りは千尋さん周辺。そして、紅蓮さんの後方。
それ以外のところは大きく地面が抉り取られあまりに無残な状況です。
……さすがにやりすぎですよね? 私の後ろではぐったりして座り込んだ音夢ちゃんがいます。ちょっと頑張りすぎたみたいです。
では、そろそろ止めに行きましょう。
音夢ちゃんに休むように言って千尋さんと紅蓮さんの側に。

「ふむ、なかなかの炎だな。だが、この我を炎で滅するなどという考えは捨てよ」
「くっ、コレでも無傷……」
「見たところ最大級の術か。かなり消耗しているな。もういいだろう。お前はここで朽ちよ。白は我のモノだ。そして、見せてやろう」
あ、近づいたのは非常にマズイかもです。
紅蓮さんの手のひらで揺らめく炎。
それから放たれるのは熱気なんて生易しい物ではありません。
備えもなく近づこうものなら蒸発してもおかしくありません。
幽霊でもじりじりと熱さを感じるほどの危険なモノ。
「コレが、炎だ」
「水鬼!!!」
美青年の一人がすかさず千尋さんの前に。
炎が膨らみ一瞬で千尋さんを飲み干しました。

残ったのは水鬼と呼ばれた式神美青年と骨まで炭化した千尋さん……。

あまりに一瞬で何が起きたか理解できずにしました。
コレは……死んで……。

「つぅ……熱い。簡単には死ねない私だが、痛みも死の感触も覚えているんだ。簡単に殺さないでくれるか?」
あれれ?? 無傷?? 燃えたのは服だけですか?
誰かわからないほど炭化していたはずなのに?
「面妖な……。骨の髄まで焼いたはずだが? まぁ、良い。一度でダメなら消えてなくなるまで焼いてくれる」
再び紅蓮さんの手に炎が。
……さっきのよりやばそうです。
ですが、それは放たれるより先に消えてしまいました。
……あれ? なにやら色々起きすぎて頭がついていきません。
「洸。いいところだったのだ、水を差すな。……ん? 巻き込む? ああ、なるほど。確かにそうだ。よし、わかった。お前の望むようにしよう」
さらに、よくわからない独り言。途中から私の方を見ていました。
私がいたから炎を使わなかった、ということでしょうか?
それと、洸って、誰でしょう?
「これまでだ。勝負はお前の負け。我は一度お前を殺し、お前の術は我に通用しない。敗者は敗者らしく負けを認め勝者の意に従え」
「ふざけるな。今頃になって現れて……白は渡さない!」
「ふむ。渡すも何もあの時から白は我の夫だ。寝取ろうと無駄な足掻きをしているのはおぬしのほうだろうが」
なにやら面白そうな会話に聞こえます。わからないことはとりあえず横に。
紅蓮さんが白さんの伴侶と言うのなら……白さんはロリコンでしょうか?
あ、千尋さんも幼いですね……。どこからどう見てもロリプニな身体です。
……そろそろ服を着るべきでは?
「違うんじゃない? アレ、身体は人間よ。たぶん、憑依ね。おそらくあの紅蓮という狐は何度も身体を取り替えながら人に寄生して存在してきた。今はたまたまあの身体なだけなんじゃない?」
音夢ちゃんはあれを寄生といいましたが。
私には共生に見えます。糸を見る限り一方的にではないです。
一つわかったことといえば、洸とは本来の身体の持ち主の名前ということでしょうか。

「さてと。ここからなら鳥居をくぐらずとも神社に辿り着けそうだな」
そんなことを呟き歩き出す紅蓮さん。千尋さんは今にも暴れだしそうな雰囲気ですが、美青年達になだめられている様子。私と音夢ちゃんはとりあえず、紅蓮さんについていくことにしました。

「白」
「……や、やあ、こ、紅蓮……」
美幼女に怯える大きな白い狼。なんだか凄い構図です。
「別れたのは確か応仁の世になったあたりか」
「……た、確かそれくらい」
「いい加減落ち着け。そこまで怯えていられると我とて傷つく」
そういわれても白さんは縮こまったままです。
「過去に何があったんですか?」
「……聞かないでくれ。思い出したくない」
などといいつつもしっかり思い出してしまったようで、白さんはさらに小さくなりました。
「白が話さないのなら我が話してやろう。ちょっとした夫婦喧嘩が起きてな。白を骨の髄まで焼いてしまったんだよ。白が妖狼としての死を迎えた原因だな」
……。
そりゃトラウマになりますね。妻に殺されてしまったら。
「そんな殺し合いになるほどの夫婦喧嘩の原因って何だったんです? って、聞いていいですか?」
あまり興味本位で聞いていいことでないですけど。
「夕飯のおかずの取り合い」
……。
はい?
……それはそれは……トラウマにならないほうがおかしいですね。
「あの日は久方ぶりに我の好物あぶらあげが手に入ったのに白の皿にのる量が多かった。それを指摘すると作ったのや手に入れてきたのも白だから量が多くてもおかしくないと言い張った。その後口論となり、次第に加熱して我は白を消し炭にしてしまったというわけだ」
とんでもない夫婦喧嘩です。狗も喰わないとはよく言ったものです。
「そして、伴侶を無くした我は古巣に戻り、白が信仰を得て神にくくられてたということをしらなかった。時が流れ我の肉体も朽ち果て、魂を回収に来た死神共を焼き払ってからは人の身体に憑依して成り代わり生活してきた。この身体もそうだ。で、家族ごと隣町に引っ越してきた。その時にこの町を覆う違和感に、懐かしい気配に気付き、挨拶に出向いたわけだ」
「来なくて良いのに……」
少しは落ち着いたのか白さんは人型に戻りました。それでも逃げ腰な所は変わっていません。百年の恋も冷めそうですね。
「見ての通り、白はお前に会いたくないとさ。さっさと私達の前から消えてくれ」
「黙らぬか、小娘。塵にするぞ?」
千尋さんと紅蓮さんの間に火花がバチバチと。
突けば破裂しそうな緊張感。千尋さんの後ろにいる美青年も私も、音夢ちゃんも動くに動けません。今ここで妖怪大戦争が起きれば間違いなく巻き込まれます。しかも、町ごと火の海になりかねません。
「……む、そういうな洸よ。実行はせぬよ」
「憑依した依り代の意識を残しているのか? むごいことをする」
「我はいつの世もそうしてきたぞ。そうすることで退魔師のどもの目をくらませることにもなる。それに、これは同意の上であり仕方が無いことだ。小娘ごときが口を挟むな」
「なにを!?」
またまた火花がバチバチと。
「はい、二人ともその辺にしておきましょう。ここで大暴れすると町を巻き込み灰にしかねませんよ」
「それは我も本意ではない。では、邪魔したな。歓迎されておらぬようだから今日は帰り日を改めよう」
「二度と来るな」
「千尋さん、その辺にしておきましょうよ」
いい加減に止めないと、本当に巻き込まれかねません。
「白、帰る前に一言だけ言っておく。……すまなかった」
去り行く後姿にはどこか哀愁が漂っています。あまりに些細な夫婦喧嘩で死に別れた二人。
ずっと後悔していたのでしょう。今までずっと。
「さてと、詩乃。夕飯の材料買って帰りましょう。もう、学校って言う時間じゃないわ」
「あ、はい。そうですね」
ん? あれれ? 何か忘れているような?? 
「私も帰るわ」
「じゃあ、途中まで一緒ですね」
まあ、何かの拍子に思い出すでしょう。
だいぶ落ち着いた白さん達に挨拶をして私と音夢ちゃんと美香さんは連れ立って神社を出ました。
「それにしても驚きね。あんな力を持った大妖怪がまだ現存していたなんて」
「隠れて過ごしてきた、といっていましたから探せばもっと居るかもしれませんね」
でも、喧嘩は勘弁して欲しいです。巻き込まれる身にもなるべきです。
「ホテルの大天狗も凄い力の持ち主だったけど……あの狐は桁が違った。師匠と同格かそれ以上かも……」
白さんより凄いといわれても今一想像できません。
それは音夢ちゃんも同じようで、実際考えているのは今晩のおかずでした。ジャガイモと人参が冷蔵庫に残っていたから手軽にカレーで良いかな、などなど。
「久しぶりにルーから作ろうかな……」
「ルー? 夕飯はカレーにするの?」
「ええ。ルーから作ると手間がかかるけど美味しいのができるから」
非常に美味しそうです。すごく……食べてみたいですが……。
ホテルのバイキングといい、普段の食事といい、この苦痛は後を引きます。
……生あるものの特権といってしまえばそれまでですが。
「……カレーって、固形のアレで作るんじゃないの?」
「……えっと、美香さん。お料理は?」
「自慢じゃないけど下手よ。台所に立つと有害物質を作るから立つなといわれたくらい」
……ヒドイ言われようです。でも、美香さんの料理の腕も相当酷かったのでしょう。
「ところで、誰に言われたんです?」
「私を殺して池に沈めた男」
おっと、聞いてはいけない話だったようです。
美香さんは地縛霊の時の姿に立ち戻ってしまいました。よく見えない表情はうっすらと笑っています。……怖いです。
「詩乃、美香さん。……なんか、静か過ぎない?」
今歩いているのは住宅街の真ん中。時間は5時前。確かに異様な静けさです。
まるで、音が遮断されてしまったような。
「……そういえばそうですね。まだまだ明るいですし、公園も近いですし、人か妖怪がいてもおかしくないですけど」
辺りには誰も居ません。いるのは幽霊二人と人間以外の音夢ちゃんだけ。
いえ、もう一人……もう『一体』いました。
今になって思い出しました。私と美香さんが神社に行った理由。
「に……人形……」
かすれた美香さんの声。アレが美香さんを襲った人形のようです。
見た感じはピスクドール。大きさは50cmほど。どういった力が働いているのか宙に浮いています。
「なに、アレがどうかしたの?」
「白さんと紅蓮さんのごたごたで忘れていましたが、昨日美香さんはあの人形に襲われたそうです」
「襲われた? 確かに、イヤな感じがするわね……」
本当に。因果の糸もどす黒くなっています。
どこからどう見ても真っ当なモノではありません。
「美香さんは負傷していました。少なくとも幽霊に対する攻撃能力は持っているみたいです」
「……物理的にもありそうよ?」
人形の手にはどこから取り出したのかハンマーと大きな釘が。アレを突き刺されたらただではすまないでしょう。痛そうです。
ひたすらに無表情な人形。私たちも動くに動けず時間だけが過ぎていきます。
そんな硬直を破ったのは第三者でした。
「なんなのこの町……人外の者が多すぎるわ」
人形の少し後ろ。
そこに一人の女性が立っていました。歳は20代前半でしょうか。私たちよりは年上のようですが、着ている服のせいもあり今一つかめません。
コスプレでアレを着ているのではないとなれば職業は一つしか思いつきません。
シスター服。教会にいる修道女が着るアレです。
……この町に教会は無いので他の町から来たのでしょうか?
「こうも目的以外の者が引っかかるようでは探しようが無い……。武器もただじゃないんだけどな」
この修道女(?)なにやら物騒なことを口にしました。
そして、ごそごそと取り出すのは黒光りする鉄の塊。
「まあ、この結界に踏み込んだ以上私達が取る手段は一つだけ。さぁ、姉さん。人でないモノは滅してしまいましょう。……私達のために」
姉さんと呼ばれた人形は無表情のまま頷きハンマーを握りなおしました。
この人形、よく見れば糸が修道女にも繋がっています。太く強いソレは家族の絆と呼べる物でしょう。
「……詩乃、あれって」
「拳銃、ですね」
一般人が持てるものではありません。修道女にはもっと縁遠い気がしますけど。
(詩乃、少しだけ時間を稼げる?)
何をするつもりですか?
(相手をしたくないから逃げる。結界を分析して解除するか穴を開けるから30秒だけ)
それくらいなら何とかなるでしょう。
念のため、いつでも夢乃と同期できるようにしておきましょう。
「あの、一つ良いですか?」
「何かしら?」
「その人形、何故人間の魂が封じ込められているのですか?」
ピクリと女性が反応しました。
「今から消滅する彼方達には言う必要の無いことよ」
「消されるつもりはありませんので話してくれても差し支えないと思いますけど」
「……たしかに、ただの幽霊ではないようだけど。諦めなさい。私達は誰も逃がさない」
「逃げるつもりもありませんよ?」
ちょっとだけ挑発。思いきりハッタリですが。
けれど効果はあったようで少し相手の動きが鈍りました。いえ、警戒を厳にしたせいでそうなっただけでしょうか。どちらにせよそろそろ時間稼ぎは出来たみたいです。
(OK、逃げるわよ。神社までダッシュ!!)
泡がはじけるように周囲の雰囲気が変わりました。公園から帰宅する子供達の声や遠くから聞こえる車の駆動音などなど、遮断されていたものが聞こえるようになりました。
人形の気配に当てられて動けなくなっている美香さんを引っ張って今来た道を逆走します。
「何! 結界が!? ま、待て!!」
慌てて追いかけてくるのですが如何せん初動に差があります。
ついでに言えば地の利もこちら側。
問題なく逃げ切れると思ったのですが―
「……そういえば、この人形。飛んでたわね」
「ですね」
神社へと繋がる道に出る前に、道を塞ぐように浮遊する人形。
「侮っていたわね。今度は油断しないわ」
背後には追いついてきた女性。
再び周囲の空気が変わり結界が張り巡らされたようです。
あちらさんはやる気満々。

……さて、どうしましょうか?



あとがき

新キャラ続々。
……収拾つくんかいな?w


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