幽々自適な生活 第25回 町なのに山狩り?

―白狼神社 客間
結局のところ、二人とも泣き疲れ、いつの間にか朝でした。
とはいえまだまだ早い時間。至福の二度寝タイムの始まりです。
ドタバタ。
……。
ジタバタ。
……なにやら騒がしくて眠れません。
仕方ないので体を起こします。
隣では音夢ちゃんがしあわせそうにまだ寝ています。
昨夜の思いつめたような表情はありません。
起こさないように気を使いながら軽くキスして、私の二度寝を阻止した原因を探しに行きましょう。
襖をすり抜けて廊へ。
そこは妖怪変化で溢れていました。
人型の者もいるにはいますが基本的にみんな正体を晒しているようです。
「あ、詩乃。おはよう」
見ると美香さんがいました。
「おはようございます。よく眠れました?」
「一睡もしてないわよ……ヤタさんたら話長すぎるわ。私はこれから部屋を借りて寝るつもり」
ああ、そういえばヤタさんと話してくるとか言っていましたね。
……そのまま朝まで、ですか。
ご苦労様です。ホントに。予想通りですが。
「ところで、この騒ぎの原因はご存知ですか?」
「山狩りの準備だって」
なにやら聞きなれない単語が飛び出しました。
「山狩り?」
「そう、山狩り。あの人形遣いを町から追い出すためだとか。場合によっては見せしめにするとか物騒な意見も出てたらしいわよ?」
「う〜ん、普通に出て行ってくれそうな人たちではなかったような気がします。……それで、皆さんやる気で本性に戻っているんでしょうか?」
「たぶん、そうじゃないかな。本殿にみんな集まってたから行って見れば? 私は寝るわ」
そういうと美香さんはあくびをしながら壁をすり抜けていきました。
さて、それでは私は本殿に向かいましょうか。

―本殿
美香さんの言うとおりそこは妖怪変化でいっぱいでした。
しかもえらく殺気立っています。物騒な意見とやらの影響でしょうか。
とりあえず、手近にいた猫さんに聞いてみます。
「おはようございます、飛雲丸さん」
「ん、ああ、詩乃か」
「みなさんえらく殺気立っていますね」
飛雲丸さんの髭がぴくんと動きました。なにやら思案している様子です。
「……仲間が一人消えた。例のシスターの行方を追っていたものだ。定時連絡が無く、探してみれば片腕だけ見つかった。……若い者達はやれ報復だ、やれ戦争だと盛り上がっていやがる」
なるほど、それでこの殺気ですか。
「もここまで来たら止めようが無い。白も見守るつもりらしい。詩乃。くれぐれも手は出さないでくれよ。相手はおそらく『御使い憑き』。手ごわい相手だ」
初めて聞く単語が出てきました。
飛雲丸さんとは別れて聞き込み開始です。
殺気立っている部屋の空気を合えて無視して突撃取材です。
皆さん面食らいながらも色々教えてくれました。
『御使い憑き』。
教会の教えを広げるため、教義にあわない邪教とされた神々、精霊を排除するための霊的兵器。絶大な信仰を盾に強力な力を振るうソレを守護霊として持つ者のこと。
御使い憑きはソレの加護を受け強力な力を振るう。
『ソレ』。翼を持つ者。いわゆる天使のこと。
『ソレ』は伝道の為の機構であり、『ソレ』は教会が持つ最大級の戦力。
天使ですか。……ニーアさんも翼がありますよね?
似たようなものでしょうか?
『違う。死神は農夫のようなもの。魂を刈り取り決められた場所へ持っていく。そのためだけの存在。……『アレ』はただの兵器。それも凶悪な、ね』
即座に否定されました。
なにやら聞けば聞くほど私が持っていた天使のイメージから離れていきます。
「皆! あいつの居所が割れたぞ!」
飛び込んできたのは河童さん。人型の時の姿は知らないので名前も知りません。
「場所はどこだ? すぐに駆けつけよう!」
意気込むのは輪入道さん。こちらも人型の時の姿はしりません。
というか、半数以上の名前も顔も知りません。
それに気づくとやたらと居心地が悪くなりました。
ここの殺伐とした空気も好きになれませんしそろそろ退散しましょうか。
そろそろ音夢ちゃんも起きたころでしょうから戻ることにします。

―客間
まだ寝ますかこの人は。
寝巻き代わりに借りた浴衣の裾やあちこちめくれて非常に色っぽいですが……見とれてるのもアレですし起こします。
というか、そろそろ起きてもらわないと遅刻確定です。
「音夢ちゃん、学校の時間ですよ」
昨日も仮病で早退したのですから今日こそちゃんと行くべきです。
たとえ、時の流れを失ってもまだまだ学ぶべきことはあると思うのです。
まあ、死んでしまってもですね。
「ん……もうちょっとぉ……」
ぐずって布団をかぶりなおす音夢ちゃん。実体があれば布団を引っぺがすなりできるのですがなんせ幽霊ですからその手の起こし方ができません。
「音夢ちゃーん」
「うにゃ……」
……かわいい。
じゃなくて。
私じゃ呼びかけることしかできないので扉をノック。
『……詩乃。起こすためだけに入れ替われとか言わないでよ?』 
実体化可能なニーアさんにお願いしようとして、先に釘を刺されました。
「けち」
『あのね……』
まあ、言いたいことはわかるので食い下がりはしません。
しかし、これで起こす手段がなくなりました。
……気持ちよさそうな寝顔。
起こすのを諦めた私がとる行動はひとつだけ。
布団を透過してこっそりと音夢ちゃんに身を寄せます。
さて、ちょっとした至福を味わいながらオヤスミなさ――

どたばたどたばた

「なによ、うるさいわね」
音夢ちゃんが起きてしまいました。
仕方ないので何事も無かったかのように朝の挨拶。
「おはようございます、音夢ちゃん」
「おはよう、詩乃。ねえ、何の騒ぎ?」
「なんでも『御使い憑き』のサヤが割れたとか」
「『御使い憑き』? なんだかしらないけど、隠れ家ってことね。ふ〜ん、で、なんでこんな殺気立ってるのかしら」
「仲間が一人、つまりは町の妖怪の誰かが腕だけになって見つかったらしいです」
「それって、ただ事じゃないわね」
「はい。でも、関わらない方がいいということなので音夢ちゃん。学校の時間ですよ」
言われて時計を見て血相を変えました。
「ちょっと、もうちょっと早く起こしてよ!」
「無理ですよ〜、触ることもできないし、呼んでも起きないし」
遅刻まであと15分。大急ぎにならなければ神社からでも間に合わない時間です。
音夢ちゃんはいつも制服をかけてある場所に手を伸ばし、空振りしました。
ここは神社で、廃校の校務員室ではないのです。
固まること数秒。
「昨日どこで脱いだっけ?」
「昨日の怪我で汚れたので洗ってくるって言ってお風呂に行きましたよね?」
「……しまった、脱衣所においたままだわ。それ以前に下着の替えが無い……」
う〜ん、致命的ですね。
って、あれ? 今は?
「……寝るだけだったから穿いてないわよ」
ぺろんと。
……捲らないでください。
「まあ、いいわ。我慢するから。とりあえず、お風呂浸かってから着替えよ〜っと」
もはや1時間目に間に合わせるつもりは無いようで、音夢ちゃんはのんびり支度を始めました。

朝食はコンビニでおにぎりを買い、音夢ちゃんはそれを齧りながら歩きます。
行儀悪いです。
今はすでに授業の始まっている時間。のんびりおにぎり齧りながら歩く学生に生暖かい視線が集まります。
本人はまったく気にしていませんが。

そんなこんなで学校へ到着しました。
閉まっている校門を飛び越えて校内へ侵入、一路教室を目指します。
「詩乃、ついて来るの?」
「ん〜、なんとなくお約束が待ち構えているような気がして」
「……は?」
校内にある違和感。昨日体験した、あの空間と感じが似ているのです。
急ぐことで頭がいっぱいの音夢ちゃんは気づいていないようですが……。
さて、どうしたものでしょうか?
そんなこんなで教室。
「ごめんなさい遅れました!」
勢い良く扉を開けて中に入った音夢ちゃん。
「東原、もう少し落ち着いて入って来い。あと、転入生の紹介だ」
「転入生?」
先生の紹介は耳に入っていません。
私も音夢ちゃんもその人物を見て固まりました。
一拍。
転入生と音夢ちゃんはお互いを指差し―
「あーーー、昨日の幽霊憑きの結界使い!」
「あーーー、昨日の罰当たりシスター!」
二人とも、昼間の学校でそれはナイでしょう?
「何だ、二人とも面識があるのか」
叫びの内容を華麗にスルーする先生。
ああ、ほら、お約束の予感がしたんですよ?
まあ、止められはしなかったでしょうけど。
普通の生徒は何がなんなのかと首をかしげ、こちら側の生徒は敵意を燃え上がらせています。ここに他の妖怪さんたちが乗り込んできたらさらに混沌とするでしょう。
そういえば、居場所は割れたとのことでしたね。まさか、真昼間から百鬼夜行で繰り出してこないでしょう。たぶん。
どのあたりまで常識が通じるのか甚だ疑問ですが。

で、昼休みになりました。
音夢ちゃんは屋上に上がって購買で買ったパンを齧っています。
隣には例のシスターと空中に浮く人形。
「何でここにいるのよ?」
「それ私の台詞。あえて言うなら、ここは私のお気に入りの場所だから。そもそも、あんた学生って歳?」
「失礼な。これでも19よ。まあ、高校って歳でないのは認めるけど」
「なるほど。で、こっちから質問いい? 何で学校にいるのよ?」
「身を隠しやすいから。あと、一般人が多いこの場所なら不意打ちはしてこないでしょうし」
「だからと言って、クラスメイトになられると目障りなんだけど?」
「そう、じゃあ、永眠させてあげましょうか? 人外の貴女ならお安くしとくわ」
私と人形はハラハラしながら二人の舌戦を見ています。
なんともコメントに困る光景ですね……。周りに他の生徒がいないことが救いですか。
「えっと、ところでお名前なんでしたっけ?」
「……先生の紹介聞かなかった?」
「詩乃、人に鉄砲向けるよヤツの名前なんて覚える必要ない」
「聞いていたのですが割りとどうでもいい事なので忘れてしまいました。ただ、会話の上で忘れたままというのは都合が悪いでしょう?」
「ねえ、この幽霊喧嘩売ってる?」
「……きっと、素よ」
ああ、ちょっと言い方が悪かったかもです。でも、嘘つくのはきらいですからね。
シスターさんはため息をひとつ。
「朝凪亜美。まあ、覚えなくてもいいわ」
「では、亜美さんと。よろしくお願いしますね」
「……幽霊のよろしくされても困るんだけど。さて、私は行くわ。これ以上話すことなんて無いから」
「では、最後に一つだけ」
「何が聞きたいの?」
「その『呪い』、解きましょうか?」
「な……バカな事言わないで! 姉さん、行きましょ!」
亜美さんは足音も荒く屋上からいなくなってしまいました。
「詩乃、最後のは何?」
黙々とパンを齧りながらの音夢ちゃん。
「糸を見る事に私が特化したといいましたね」
「夢乃が糸を切るんだっけ」
「はい。その時に変化がありまして……前より糸から読み取れる情報量が増えたんです。前より負担も無く、よほど複雑に絡み合っていない限り読み取ることが可能です。まあ、その気になれば私に隠し事は無意味で、プライバシーも何も無くなります」
常にそれだけの情報が入ってくると流石にしんどいので今はON・OFF切り替えられるようにしています。それに、知りたくないことも世の中にはあるでしょうし。
「で、呪いは見えた、と?」
「はい。正確には亜美さんと姉さんと呼ばれた人形に絡みつく強力な呪いですね。ついでに言うと、呪詛をかけた人もわかりました。彼女が、というより、彼女の家系が人外を毛嫌いする原点まで」
色々と根深そうです。けれど、元さえ辿れば糸を解くことも難しくは無いでしょう。
私たちのこの力、こういう時にこそ役に立てなければ。
「ついでに、彼女達と片腕だけが見つかった妖怪さんには接点がありません。上手くいけば妖怪さん達との諍いも止められます。というわけで音夢ちゃん。亜美さん達を見張っていてくださいね。私はちょっといって来ます」
「まあ、止めないけど。無茶は駄目よ?」
「もちろんですよ。無茶なんてありませんから。音夢ちゃんこそ喧嘩しないでくださいね」
「うん、それは無理」
きっぱり言い切りますか。
「じゃあ……今日一日だけでも我慢してください」
「わかった。けど、ちゃんと夜にはご褒美頂戴ね?」
ご褒美って……もう、音夢ちゃんのえっち。
まだ昼だというのに顔が赤くなりました。
火照りを覚ますために一気に空へ。音夢ちゃんが下で何か言っていますが聞こえないフリ。
大きく深呼吸。
目指すは白狼神社です。



あとがき

色々と停滞中……。

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