第28回 白い悪魔、現る ―神社 「キャパシティを超える力が戻ったせいで溢れた力が身体の中で暴走したみたいだね。暴走した力自体は発散できたみたいだけど暴走の爪痕はそう簡単に癒えそうにないな。まあ、私が治療に当たるから安心していい」 「それより、私達に再びかかった呪の内容……わかりませんか?」 「残念ながら私でもわからない。かけた本人もしばらく出てこれそうに無いしね……」 「命にはかかわらないらしいですが……土地神でも見通せませんか……」 社務所の一室、部屋の中央に寝かされた洸ちゃんは苦しそうにうなされています。 そして、またもや呪をかけられた由美さんと亜美さん。この二人も深刻そうでただでさえ重い部屋の空気は3割り増しくらいに重いです。 「よし、これで内臓系の損傷は何とかなったはずだ」 しばらく洸ちゃんの身体に手をかざしていた白さん。その額には薄っすらと汗が。 洸ちゃんの寝息も少し、落ち着いたようです。 「さて、悪いが客を迎えにいかなければいけないんだ。紅蓮の様子を見ていてくれないか?」 「わかりました」 「朝凪の二人は部屋を用意しておくから身の振りが決まるまでは居るといい」 「……ありがとうございます。色々とご迷惑をかけたのに」 暴れたのは主に亜美さんだと思うのですが。 「それは気にしなくていい。この町で起きた裏のことは私が全て管轄しているからね。では、よろしく頼む」 そういって部屋を出て行く白さん。 数歩進んで戻ってきました。 「そうそう、さっきの呪の話だけど、詩乃。視えてないのかい?」 もちろん 「視えてますよ?」 「吐け。すぐさま吐け」 由美さんに幽霊なのに首根っこつかまれて凄まれました。 首をがくんがくん前後に。あうあう、揺れます。 まったく……とんだやぶへびです。 「で、どんな呪なの?」 「う〜んと……」 言ってもいいのでしょうか? 命には確かにかかわりませんが、もろもろの問題がありそうな。 「詩乃、焦らしても仕方が無いよ。どこぞの野蛮な人形遣いは今にも飛び掛りそうだし」 「喧嘩売ってるなら買うわよ?」 睨み合う由美さんと音夢ちゃん。まさに犬猿の仲、でしょうか? 二人の短い導火線に火がつきます。 しかし、今は消火役がいるので大事にはならないはずです。 「由美。そこまでにして。今はどんな呪かを知るのが先決」 「じゃあ、焦らさず視えた呪の内容教えますね。覚悟して聞いてください」 そんな前フリを入れたせいで息を呑む二人。 「どうぞ……」 「呪がかかっている限り、お二人やその子孫、一族郎党女性は皆ぺたんこになるそうです」 「……?」 「……ぺたんこ?」 「お二人も徐々に萎んでしまうそうですよ?」 二人ともそれなりに大きいのに残念な事に。 「えっと、何が?」 「おっぱいが」 「……」 「……」 みょーな空気の中、音夢ちゃんが堪えきれずに大爆笑。 「あの狐、ほんっっっっとうにいいセンスしてるわっ!」 笑い出したらもう止まりません。失礼なのは分かってますが、私ももう堪え切れません。 「由美、この二人は好きにして。私はこの狐を始末するわ」 「了解、姉さん」 あ、二人とも目がマジです。 音夢ちゃんと意見が合いました。思考が筒抜けってのも便利ですね、こういうとき限定で。 1、 2の3で逃走開始です。 ……紅蓮さんはまあ、何とかなるでしょう。 「あ、こら待て!」 「待てと言われて待つ人はいませんよ!」 社務所から脱出して一目散で神社の外へ。 「あっ」 「きゃっ」 鳥居をくぐった所で音夢ちゃんが通行人とぶつかってしまいました。 白いドレスを着た金髪の少女。頭には白い花のあしらった麦藁帽子。場違いと言うか、そこだけ空気が変わると言うか。 「ごめんね、ちょっと急いでて」 音夢ちゃんは少女を助け起こし、背後に立つ由美さんの気配に動きを止めました。 「残念、ここまでのようね。泣いて謝っても許してあげないから。死ねないその身体、呪うといいわ」 「こんな子供の前で流血沙汰起こす気? よほど頭が沸いてるのね」 ああ、音夢ちゃん。挑発しなくても……。 「そうね、せめて人払いくらいしないとね」 四方に飛ぶ銀の釘。人払いの結界の基点になるそれは神社の前に空白を作り出しました。 ただ、つくりは荒いようですぐに破壊できそうな気がします。 「……銀釘、なのね」 普通の人は私達を認識できなくなる結界の中なのに。 麦わら帽子の少女は小さくつぶやき―― 「あれ? なんで――っ!?」 ……ああ、人間って地面と平行に飛べるんですね。 そのままどんがらがっしゃんと商店街の看板に激突。痛そうです。 「まったく……話が違う。ここに教会の手は届いていないと聞いていたのに。管理者は来ないわ、教会の勢力がいるわ……私に安住の地はあるのかしら」 やれやれと大仰なしぐさで一人ぼやく少女に私と音夢ちゃんは呆然。 あの細い身体のどこに女性を十数m蹴り飛ばすだけの力があるのでしょうか? ……彼女が、こちら側の存在ならありえそうですね。人間の常識なんて通じません。 「で、ここが白狼神社であってるの? 言葉は睡眠学習で何とかしたけど、読み書きまでは時間が足りなかった。なんで表記体系が色々あるのか理解できないわ」 「とりあえず、ここが神社だけど……もしかして師匠が迎えに出たお客さん?」 「たぶん、あってるわ。と言うことはつまり、入れ違いになってしまったようね……。仕方が無い、待たせてもらうわ。案内なさい」 「いいよ。邪魔者蹴飛ばしてくれたしそれくらいはやるわ」 蹴り飛ばされた由美さんは……うん、タイミング悪く復活しました。 「……手配書で見たことがある。まさか、会うことになるとは思わなかったけど……」 「あら、教会の犬。立つなら殺すわよ?」 「あいにく教会に戻るところはないの。道具も使い切ったらオシマイ。教会との縁も切れる。けど――」 由美さんの手には拳銃。弾丸は教会の聖印を刻み人外に絶大な威力を誇るとか。 「あんたにかかった懸賞金は誰でももらえるのよ『ザ・ファースト』リリューシュ・アル・ネイベルト。姉さんとの新しい生活の礎になってもらう!」 「意気込むのはいいけれど」 「えっ……」 由美さんと謎の少女の距離は十数mあったはずなのに。 少女は何事も無かったかのように由美さんの背後に。 「実力が伴っていないわ。出直しなさい。管理者の住処の前でこうなるのは不本意だから半殺しで許してあげる」 拳銃を持った由美さんの手を掴みそのまま『くいっ』と。 ボキリと嫌な音がして手が変な方向に曲がりました。 「大丈夫、ニンゲンは意外と頑丈なのよ。四肢の全てを折られても生きていられるわ。実際手足を砕いて切り落として飼っていた事もあるから」 もう一本折る気のようです。後半のセリフからしても流石に止めないと色々とまずそうですね。 「あ〜、その、ストップ。そいつ、戦意はもう無いみたいだから放置して師匠の所にいきません?」 先に行動に移したのは音夢ちゃんでした。 実際由美さんは動ける状態じゃなさそうですし、止めてくれればありがたいのですが……。 「二度とかかって来れないようにしておきたかったけど……管理者に与える印象は良くなさそうね。わかったわ。腕一本で許してあげる」 言い終わる頃には音夢ちゃんの隣に。移動が見えません。 なんだか得体の知れない人です。いや、明らかに人じゃなさそうですケド。 とりあえず、社務所に戻って白さんの帰りを待つことにしました。 鳥居をくぐり会談を上って売店の前に。案の定売店の主は船を漕いでいました。 「千尋さん、白さんの言っていたいお客さんが来ていますが?」 「……眠いから……あとにして……」 いい夢でみているのかニヤニヤしながら寝ています。幸せそうなので放置しちゃいましょう。ああ、お客さんの目が呆れています。足早に先に進みましょう。 と、音夢ちゃんが足を止めました。そりゃそうでしょう。 社務所の入り口には鬼の形相で仁王立ちする亜美さん。 「そこの白いの。人の妹を痛めつけておいてただで済むと思ってます?」 「……ん? ああ、お前もさっきのと同じ教会の犬だったのか。なら私が相手してあげるのも道理だけど」 空間が凍りつくような感じがしました。何かが動けば壊れそうな張り詰めた感じ。 動けません。私も、音夢ちゃんも。 「道理だけど今はパス」 唐突に殺気が消えてあまりの変わりように思わずずっこけました。 「なぜなら長旅で疲れてお腹が減ってるから!」 負けじと仁王立ち。なにやら空気が変です。 ああもう、どうにでもなーれ。 「それに、彼方達別々にやるより、二人でいた方が手ごたえありそうだから……。妹の傷が癒えたらまた相手してあげる。それまで我慢なさい」 「後悔するよ」 「後悔? そんな事していたら今の私はないわ。安心しなさい。逃げも隠れもしないしこの町に腰をすえる予定だから」 「……そう」 それだけ言うと亜美さんは道を譲りました。 「申し訳ないけど、しばらくホテルに泊まると神主様に伝えておいて」 そのまま由美さんのところへ。 「さてと、くつろげる場所に案内してもらえるかしら?」 「あ、うん。こっちが応接間よ」 ―応接間 「ふう、疲れた……」 どうも大物らしい少女は見た目相応のしぐさでソファーに座ると猫のようにのび。 室内でよく見るとホントに人形のような造詣をしています。 「紅茶、安物しかないけどそれでもいい?」 「せっかくこの国に来たんだから日本茶と言うやつがいいわ」 「はいはい」 「後お腹減ったわ」 「さっきも言ってたわね。人間じゃないみたいだけど、何食べる?」 「人間が食べたい」 「私は美味しくないわよ?」 「冗談よ」 ぜんぜん冗談っぽくなかったです。 「本当は飲むのよ」 「へ?」 瞬きする間に少女の姿は消えて音夢ちゃんの背後に。 「まあ、私は燃費がいいから……100ccほどでいいわ」 「ちょ、待って! なんか分かったような気がするけど何する気よ!」 「月に1回のお食事。具体的に言えば吸血、ね」 「やっぱりー!」 じたばたしても少女の拘束からは抜けれず。 かぷ。ちゅ〜。 怒涛の展開についていけませんでした。 ほんの5分ほどで食事は終わったようです。 少女は噛み痕からにじむ血を綺麗に舐めとって満足そうに音夢ちゃんを放しました。 「ご馳走様。気に入ったわ。貴女名前は? 私のお気に入りに選んであげる」 音夢ちゃんはどこか息を荒くして肩を抱き力なくぺたんと座り込みます。 「詩乃……」 「はい? 大丈夫ですか?」 「大丈夫だけど、大丈夫なんだけど……アレ、やばいわ」 よく分かりません。要領を得ないので意識を音夢ちゃんと深くつなげます。 ……気持ちよかった、ですか。 「もう一度って言われたら……断れない、かも」 とりあえず、天にも昇る気持ち良さで腰が抜けたようです。 「痛いより気持ちいいほうがいいでしょ? 私にとっても暴れられると気分悪いし。ちょっと魔力を流し込んで痛みを快楽に変換してるのよ。何倍にもして。どう? 癖になりそうでしょ?」 コクンとうなずく音夢ちゃん。 薄紅色に上気した顔は二人キリの時にしか見れない表情です。 ちょっと悔しいです。 「ま、すぐ答えてくれなくてもいいわ。今のでしばらくはもつから。ところで、まだ自己紹介してもらってないのだけれど?」 ああ、そういえば。 「私は八津基詩乃といいます。見てのとおりただの浮遊霊です」 「……ただの? ふ〜ん。ただのゴーストねぇ」 なにやら値踏みでもするように見られています。 この人には私の力が見えているんでしょうか? 「血の美味しい貴女は?」 「東原音夢。血の美味しいって、他に言い様無いの?」 「今のところないわね〜。ん、貴女、私がつけた噛痕は?」 「ちょっと訳アリでさ。すぐに治っちゃうの」 すっと少女の目が細くなりなにやら空気が変わりました。 「残念。そう、貴女なのね。いや、二人って言ってたからもう一人いるのか。もったいないな、せっかく美味しい血を見つけたのに。ホントにもったいない」 ぺろりと唇をなぞる舌は飢えた猛獣のソレと重なります。 「お気に入りにするって話、あれやっぱり無しね。貴女の血は吸えないわ」 「えっと、どういうこと?」 「しらないのなら私から言うべきではないわ。ホントにもったいないけど」 気になったので糸を読んで視ましょう。 と、睨まれました。蛇に睨まれた蛙ってこんな気分なんでしょうか? 生きた心地がしません。幽霊ですけど。 「世の中にはしらない方がいい事もある。知る時ではないこともある。少し、弁えなさい」 「は、はい」 「わかればよろしい。つぎは私ね。私はリリューシュ・アル・ネイベルト。いわゆる吸血鬼よ。近しい者はリリーって呼ぶから彼方達もそうしてちょうだい。まあ、色々あって住処のしてた城を追われて新しい居場所を探していたの。そんな折、管理者が接触してきてね。この地に腰をすえることにしたのよ」 「吸血鬼、ですか」 私の持つイメージとはかけ離れていました。 そもそも、真昼間なんですが。 「さっき噛まれて私も吸血鬼になったりしないでしょうね?」 「ないわ。おそらく彼方達が知っている吸血鬼と実物はかなり違う。いや、イメージ通りの者も多くいるけど、少なくとも私はそのイメージに当てはまる所はほとんど無いと思うわ」 リリーさん曰く、日光だろうが昼間だろうが活動可能、にんにくも好きではないけど無害、十字架も嫌いだけど無害、教会の人たちは煩わしいけど結局のところ無害、流れる水も問題なければ鏡にも映ります。それでいて長生きしている分博識で色々できるのだとか。 無敵ですね……。 「昔は色々悪さもしたけど、最近はひっそりと暮らしていたのに。教会のバカ共が城にミサイル撃ち込んだり、爆撃したりしてねー。流石に逃げ出したわ。ま、この国には教会の勢力は届きにくいし、来たとしても土地神の庇護下にいればほぼ問題ないでしょう。管理者の提示した条件もあってない様なものだからお得だわ」 「この地に住む条件ですか?」 「そそ。交換条件って事だけどかなり私に有利ね。けど、秘密。特に彼方達には」 はて、どういう意味なのでしょうか? 気になりますがきっと答えてくれないでしょうし、糸を辿ろうものならナニされるかわかりません。 私達には特に秘密、ですか。う〜ん? 音夢ちゃんも気になっているようですが同じ結論にたどり着いたようです。 聞くだけ無駄。この手の長生きしている類には一般論とか通じるわけも無いのです。 「なんだ、やっぱり入れ違いになってしまったのかい」 と、白さんがお帰りです。 しかし、どこか疲れた様子。隠してはいるようですが普段より生気が無いような。 「お久しぶりね。前会った時よりやつれてるけど、大丈夫?」 「なに、問題ない。詩乃、音夢。悪いけど二人にしてくれ。あと、千尋や他の者も近づけないように」 二人で密談だそうです。 まあ、仕方がありませんので洸ちゃんの様子でも見に行きましょう。 なにやら気になっている様子の音夢ちゃんをせかして部屋をでます。 「ねえ、詩乃。最近の師匠の疲れ方、異常じゃない?」 「神様だって多忙になれば疲れるのでは?」 そう口にしながらもソレは無いと考えていました。 ただ疲れているというよりは力を消耗している。そういえる様な。 「ただ、多忙でしんどいだけならいいんだけど……なんかしっくり来ないわ」 「私達に知られてはいけない条件って言うのも気になりますね」 気になりはするけど、だからといってどうにもならず。 仕方が無いので当初の目的通り洸ちゃんの様子を見に行くことにしましょうか。 「思ったより時間が無いんじゃない?」 「……そうかもしれないね。けれど、まだあがく時間はある」 「世界を相手にどこまであがけるのか、私はこの町で行く末を見守らせてもらうわ。もちろん、望むなら協力は惜しまない」 「『術』の維持が出来なくなった時、世界がどう動くのかわからない。何も起きないか、時の歪みを正し無かったことにされてしまうのか」 「さぁ、どうなるのかしら? 普段なら神のみぞ知る、って一言で済ませるけど……貴方が神じゃどうにもならない」 「願わくば前者であらんことを。願わくば私の行動が徒労に終わるように……」 「神の祈りは誰が聞き遂げるのかしらね……?」 |
あとがき こっちかよ! とかツッコミは無しで。 ランスは書きたいけど書けない状態。スランプなんて高尚なもんじゃないのは確実。 |