第6回 妖怪は存在するのです。 ―廃校 確か、昔は第七木楽小学校だったとか。校区再編で8あった小学校が二つつぶれました。 ここはその一つ。町から少しはなれた山の中腹にあるため真っ先になくすことになった学校跡です。今は荒れ果て見る影もない……ように見えないのは私の目がおかしいのでしょうか? 私のいた学校とさして変わらないような……。 ともかく、私と玄さんが来たのはそんな場所です。 ちなみに時間はお昼時。実は寝過ごしました。 それはさておき。 「ここにも幽霊さんがいるんですか?」 「いや、ここにはおらんよ。ここにいるのは人でも幽霊でもないものじゃ」 「死神さん?」 「……あやつらとは違う」 なぜかわかりませんがこの前から死神さんの話をすると玄さんは決まって嫌そうな顔をします。今もそうです。 ……あまり話題にしないほうがいいみたいですね。 「ほれ、いたぞ」 「へ?」 見た感じ誰もいません。昇降口らしきところにいるのですが人の気配はかんじられません。 幽霊の気配もです。 「もう少し下じゃ」 「下、ですか?」 言われたとおりに視線を下げてみます。 あら、可愛い。猫がいました。1、2、3匹です。三毛猫と黒猫と茶猫です。 確かに幽霊でも人でもないですね。 「玄、これが新入りか?」 ……………………………。 猫が喋りました。猫語ではなく日本語です。三毛猫が低い男性のような声で。 あれ、三毛猫はメスしかいないはずじゃ? 「混乱しているようだな、新入り。俺は飛雲丸。齢100と2つの猫又だ。さて、自己紹介は先にしてやったぞ。名はなんと言う?」 「え、あ、私は八津基詩乃といいます」 「詩乃か。俺の名前には1歩及ばないがいい名前だ」 なんなのでしょう、この猫は? 猫又といっていましたが、それっていわゆる妖怪というやつですよね? 昔話にはよく出てきますが目の前にいるというのは……。 「あと、こっちがアカハナ、こっちがカケツキだ」 茶猫と黒猫がそれぞれちょこんと頭を下げました。なんと、この猫さんたちも人語がわかるみたいです。……すごいですね。 「……縛鎖を逃れた浮遊霊、死すべき運命でのないのに身体を失い漂い、他の地縛霊を解き放つか。……これが神とやらの悪戯ならかなりたちが悪い。……玄、例の件引き受けよう。こやつを死神どもにくれてやるのは癪に障る」 「すまんな、飛雲丸」 玄さんと飛雲丸さんはなにやら分かり合っているようですが私にはなにやらさっぱり。 わかることといえば、私のことを言っていたということくらい。 「ヒウンサマ、アナタノ、ゴエイウケタ」 思わず声の主を探すと、どうも茶色の猫さんみたいです。確かアカハナさんでしたっけ。 この猫さんも喋れるんですね。まだちょっとうまくないみたいですけど。 しかし、護衛ですか。……話の流れからすると死神さんからということになるみたいですが……? 「あの、私やっぱりよくわからないんですが……」 「ん、ああ。お前はイレギュラーな存在なんだよ。本来なら踏切から出ることもかなわぬただの地縛霊のはずだった。だが、何が因果かは知らんが、縛鎖を切り離すという力を持っている。その力は本来死神が持つもの。地上での刑期を終えた魂を解放するための。プライドの高いやつらはこう考える。『我らと同じ力を持つものは必要ない』と」 なにやら難しいです。……そんな難しい話をしているのが猫さんであるということも相まってなおさらわけがわかりません。 「もし死神どもが動き出せばお前は天国や地獄に行くでもなく消される。完全なる消滅だ。さらに、お前に関する記憶や情報も全て消され、生きていたお前の存在も消されるだろう」 それはつまり、父も母も私という子供の存在を忘れてしまうということでしょうか? 「両親だけではない。友人も、クラスメートも戸籍からでさえも消えてなくなる。魂を司る死神に消されるということはそういうことだ」 それはあまりに悲しすぎます……。 「だが、そうするのは死神どもの傲慢から来る。数年前あいつらを統括する者が消えて以来統率は無く、好き勝手やっていやがる。おそらく、お前の能力に気づいた死神はとりあえずというレベルで消しに来るだろう」 殺しに、では無くて消しに来る。まあ、幽霊になっちゃったわけですから『死』というのはおかしいのでしょう。 ただ、消えてしまうならそれでもいいのです。けれど、それで周りにいた人たちを巻き込むなら……消えたくはありません。 あれ、でもどうやって護衛をするというのでしょうか? 空を自由に飛びまわる死神さんと猫さんでは活動範囲にも大きな差があると思うのですが。 「……何を疑問に思っているか当ててやろう。どうやって我らが死神からお前を守るというのか、だろう?」 おかしいですね。思考はブロックしていたはずなのですが? 「まあ、100年も生きていれば相手の思考を予想するくらい造作もない」 なるほど。年の功ですね。 「そもそも死神は自分が魂を導くその対象の地縛霊や浮遊霊の前にしか姿を現すことができない。つまり、肉体を持たない存在や失った者の前だけだな。そういうルールがあるらしい。つまり霊体を見ることが出来る我らか、幽霊を視るお前の友人の側にいれば死神は近寄れない。護衛とはまあ、そういうことだ。側にいる幽霊以外が死神を見ることが出来れば安全だ。だから、お前はお前の友達の側にいろ。彼女が忙しい時は我らが目を光らせる」 えっと、猫さんたちといるか、音夢ちゃんといれば安全ということですね。 「もう一つ、この廃校から出ないことでも安全は保てるよ」 声は後ろから。振り返ると着物を着た小さい女の子がいました。 「これはこれは、千尋様」 玄さんは女の子を千尋様と呼び深々と頭を下げます。 う〜ん、……幽霊とは違うようですけど……? 「はじめまして、八津基詩乃といいます」 とりあえずご挨拶。 「知っている。玄と飛雲丸から聞いているよ。私は千尋。人の言うところの座敷わらしという妖怪だ」 まるで日本人形そのものにも見える容姿は妙に説得力がありました。 ニコニコ笑っているのにどこかしら妖しさが漂っています。 「先ほどこの学校に結界を張った。死神どもがくればすぐに判る。ここで過ごしている限りは危険はない。のんびりしたい時や人手が足りない時はここへ来ることだ。歓迎するよ」 「はい、じゃあそうさせてもらいます」 「うん、素直でよろしい」 ざしきわらし。この国には色々な話がありますが、共通するのは住む家に富をもたらす。だったかと。……まあ、学校に富をもたらしても仕方がないわけで、なぜここに住んでいるのでしょうか? 聞いてみましょう。 「あの、千尋さんでいいですか?」 「好きに呼んでくれてかまわない。それで、何が聞きたい?」 「なぜこんな寂れた学校に住んでいるのですか?」 「簡単なことだ。街では我々の姿を見てしまう人間もいるかもしれない。昔ほど人口が少なくない。そのせいで妖怪や浮遊霊は人目につきにくい山の中にあるこの廃校に集まる。そういう場所が一つくらいあってもいいだろう。だから、私はここの守護を任されている」 なるほど、だから玄さんが『様』付けで呼んでいたのですね。 「その上、この辺りの土地神は幽霊や妖怪に寛容だからな。ここらには我々幻想種が多く存在する」 ……なんだか難しいお話になってきました。ゲンソウシュってなんでしょう? 「ふふふ、そのうち知れるよ」 どうもこの人たちの前では思考のブロックは意味をなさい無いようです。 そして、この人たちが『そのうちに』というのですからきっとそれは本当なんでしょう。 幽霊が存在して、妖怪もいるのです。それくらいの不思議なことがあっても最早驚けません。 「えっと、ではこれからよろしくお願いします」 「ああ、心得た。さて、では新入りの歓迎会を催そうか。玄、街の者に連絡を。飛雲丸は扉の向うの者を呼びに。アカハナとカケツキは宴の準備を手伝ってくれ」 「承知しました」 「わかった。行ってこよう」 玄さんと飛雲丸さんはすぐさまお仲間を招集に行ったようです。残ったアカハナとカケツキもどこかへ走っていってしまいます。なんとなく手持ち無沙汰です。 「私は何をしましょう?」 「主賓に頼むような事は……まあ、いいか。校舎裏にブナの巨木がある。その木の中ほどにある洞を住処にしている者がいるから呼んできてくれ。宴の場所は体育館、開幕は午後6時。遅れぬようにな」 「はい、わかりました」 「それでは準備にかかるか」 言うなり千尋さんは消えてしまい、いなくなりました。 なんというか、さすが、妖怪ですね。じゃあ、私も大きなブナの洞に住んでいる誰かさんを呼びに行きましょう。 けど、木の洞に住んでいる方ってどんな方なんでしょうか? まあ、行けばわかるのですから考えるより先に行動しましょう。校舎の壁をすり抜けて一直線に目指します。っと、こっちは表ですね。回れ右で校舎裏へ。 外に出ると、なるほど、大きなブナの木です。中ほどに大きな洞もあります。人一人が入れるくらいの。……熊がいたりしませんよね? 恐る恐る空中から洞を覗きます。中には一羽のカラスが寝ています。ちょっと大きくて70cmくらいありそうですが見た感じは普通のカラス。とりあえず、声をかけてみましょう。 猫に通じたんですカラスにも人語が伝わるかもしれません。 「お休みのところすいません、千尋さんからこの洞に住む方を呼んでくるように言われたのですが、彼方でいいのでしょうか?」 「……ふむ、何のようかね?」 普通に人語で返ってきました。一安心です。 「何でも私の歓迎会を開くとかで体育館に集るようにと」 「そなたの歓迎会? ああ、玄が言っていた女子か。して、時間は?」 時計をちらり。今はまだ1時前、5時間はあります。 「午後の6時からですね。今はまだ1時ですから時間があります。どうしましょうね」 「そういえば名前を聞いていなかったな」 「あ、ごめんなさい。八津基詩乃といいます」 「わしはヤタと呼んでくれればいい」 ヤタと来てカラスとなると神話の八咫烏を思い描きますが……。妖怪もいるのですから神話の登場人物(?)が存在していてもいい気がします。 とりあえず、聞いてみましょう。 「本物さんですか?」 「もう少し別の聞き方はないのかの?」 少しストレート過ぎましたか。 「神話に出てくる八咫烏って、彼方のことですか?」 「答えはノーじゃな。まあ、一部イエスともいえるのだがな。さて、一つ昔話でもしてやろうかい」 そういってヤタさんは木の洞から出てきました。暗いところでは気づきませんでしたが、日に当ってその身体が私と同じようなものだということに気づきます。 「見ての通りわしはカラスの幽霊とでも言おうか。死んでからの年月は玄と大して変わらぬよ」 つまり、カラスの浮遊霊ってことですね。 「そもそも、わしは地上に残るつもりなどなかった。だがのう、何の因果か生まれた時から奇形でな。足が一本多かったんじゃ」 言われてみるとその通りで。その姿は私が知識として知っている八咫烏のものと同じです。 「ちなみに古事記には『八咫烏は3本足』などとどこにも書かれていない。どうも大陸から伝わった別の話とごっちゃになったようじゃが。この足と伝承のせいで、わしの死体は社に祭られてしまった。まあ、小さな村の小さな社だがのう。それでも神の使いとしてくくられてしまって未だにこうして存在している。しかし、ただのカラスの幽霊に何かが出来るわけでもない。最初こそそう思っていたがな。信仰の力というのは侮れぬもの。今では夢枕に立つとか2〜3日程度の未来視くらいは出来る。が、最近土地開発とやらで社が破壊されてな。白王を頼ってここに住まわせてもらっているんじゃ」 ここから語られるのは信仰の対象になってしまったただのカラスの物語。 ……ごめんなさい。話が長すぎて細部まで覚えていません。 要約すると人々の信仰に答えて何とかしようとするうちにその願いに応えることが出来るようになったといったところでしょう。2〜3行あれば語れそうです。 村の誰々の子供のお使いを見守った話だとかとにかく色々。 正直、宴会が始まるまで聞かされるとは思いもしませんでした。 私は相槌を打つだけで、ヤタさんはひたすら5時間近く話しっぱなしです。 あれですね、お年寄りの話は長いのです。 今から宴会だというのに気力が持つか心配です。 では、行ってきます。 |
あとがく なんとなく気に入らず珍しく3回ほど書き直しました。 ただでさえ書く暇がないというのに。 さておき、登場人物(?)がそれなりに増えていきます。補完を目指す奇特な方はひたすら前の話に戻りましょう。 |